米・水・麹──日本の食の宝もの

発酵調味料の物語

醤油、米酢、本みりん、塩、味噌、日本酒。
どの家庭にも昔から当たり前のようにあった、日本の調味料。
小さな頃は、それがどれほど大切なものかなんて、気づきもしませんでした。

でも、年を重ね、毎日料理を作るようになって、少しずつ見えてきたことがあります。
「いつもの味」がどれだけ深く、豊かで、やさしいものだったのか。
そして、それを支えているのが、米と、水と、麹という、シンプルな素材だということに。

日本の風土が育んだ、三つの宝もの

米、水、麹。
これは、日本という土地が生み出した、奇跡の組み合わせです。

:ただの主食ではありません。日本酒も、みりんも、お酢も、すべてはここから始まります。

:ミネラルの強い硬水ではなく、素材の旨味を引き出すやさしい軟水。

:日本だけに棲む「国菌」。酵素の力で、素材を甘く、まろやかに変えていく小さな魔法使いです。

これらがそろい、八百万の神々が手を貸し、甘くてやさしくまろやかで力強い味が生まれます。
そしてその味わいには、どんな添加物でも真似できない「奥行き」と「ひろがり」があります。
私はそれを知ってから、もう一度、台所にある瓶たちを見つめ直すようになりました。


「日常」にひっそり溶け込む、発酵のちから

米・水・麹から生まれるものは、本当にたくさんあります。

日本酒:米と水と麹、たったそれだけで生まれる、透明で懐の深い日本のお酒。
    私は日本酒の歴史や製造工程を知って以来、感謝なくして飲めなくなりました。
    たった一杯のグラスに、人生の尊さがすべて詰まっているような気がして。

本みりん:もち米と米麹、そして米焼酎を、時をかけて育てた甘いお酒。
     料理に深いコクとまろやかさを加えてくれます。

米酢:酒を造って、そこからさらに酢酸菌のちからで育つ、やさしくも奥深い酸味。

甘酒:米と麹だけでできた、滋養たっぷりの「飲む点滴」。
   酒と言っても、米麹だけで作られたものには、アルコールは入っていません。

塩麹:米麹と塩、水がじっくり溶け合って生まれる、旨味のかたまり。

米味噌:地域ごとに風味が変わる、まさに土地の味そのもの。
    一杯のお味噌汁には、子供時代からの温かい記憶ごと入っています。

どれも、自然の恵みと、作り手さんの志ある手仕事が重なってできあがるもの。
それは決して派手ではないけれど、日々の食事に寄り添い、忙しい日々にそっと深呼吸を思い出させてくれる存在です。

今、その「当たり前」が・・・

けれど今、その「当たり前」が少しずつ崩れ始めています。。
日本の米農家は年々減り、私たちが手に取る米の多くが外国産に置き換えられようとしています。
価格だけを見れば、それは仕方のない選択かもしれません。

でも本当に、それでいいのでしょうか?

神棚にお供えする「米・酒・塩・水」は、ずっと昔から神聖なものとされてきました。
ただの食材じゃないんです。
そこには、日本の暮らしや祈りが息づき、日本人が日本人らしくあるための大切な何かが宿っているように思います。

だからこそ、これからは「安いから」ではなく、「大切にしたいから」選ぶ時代へ。
日本の米、美しい水、そして丁寧に作られる麹と発酵の文化。
そのひとつひとつの食材に、自然に、作り手さん方に感謝の気持ちをもって、その価値を選択することが大事だと思うのです。

これは日本の話ではありますが、世界中のどの国にも守っていきたいその土地が育んできた味と文化がありますよね。長い時間をかけて作られてきた伝統を残していきたいですね。
そして、国ごとの違いを愛で合えたら素敵だなって思うのです。

そんな想いを抱いて、このブログを書き始めました。
伝統を静かに守り続けてくれている、すべての作り手さんへ。
心からのありがとうを込めて。